blog

2022/02/03 23:51

弊社では、かじゃある盆栽の制作販売に加えて、自事業所地域の課題についても解決策を見出すべく活動をしています。地場産業である植木業の就労者の高齢化という課題に対して、新たな担い手を見出すことは容易ではなく、チャレンジを続けています。

1.この地域の先人たちの願い
さいたま市南部には、都心から車で1時間程度のところに、約1260haという広大な見沼田んぼがあります。見沼田んぼ周辺地域を含めて、今なお、農村の原風景が残っている地域です。この地域には、今から2000年前の第10代崇神天皇の時代に勧請ともされる氷川女体神社の他、江戸時代に世界に誇る技術で造られた運河・見沼通舟堀(国指定史跡)と共に見沼代用水(世界灌漑遺産)等もあり、歴史に支えられた農業の盛んな地域でした。
かつてこの地に住んだ先人たちは、“この地に住む我々の子々孫々が、この地を守る限り繁栄できること”を願ってくれた恩恵により、私たちはこの地に住み続けることができていると言えるでしょう。

2.それまでの農業に加わった新たな産業としての植木生産
米・野菜・果樹を中心にした見沼田んぼを中心とするこの地域は、都心の食料への供給の役割がありましたが、昭和30年代初頭には大きく様変わりをします。全国的な住宅建築の急増に応じて、安行地域(現川口市)を発端にした植木産業も埼玉県南部の主要産業として興隆をします。
安行地域と隣接し、土質が似ている見沼地域は、植木産業に適していることから、米・野菜・果樹に加え、植木が加わり、農業資源の豊富な地域としての特徴を形成するに至りました。
この植木業の中でも、庭木や街路樹にある樹種を扱う事業者、盆栽に進む事業者が多く生まれ、川口市・安行地域と私の住むさいたま市緑区周辺が日本の三大植木生産地域として、福岡県・久留米市、兵庫県・宝塚市と共に認識されるようになりました。


3.   都市化・工業化の波
昭和60年代になると、都心から近いことから、見沼田んぼ周辺地域も、新興住宅も増え、工業用地が拡大されるなどの、都市化・工業化の波に晒されます。地元農業者の子息は、より高収入・キャリア獲得が可能なビジネスに自身の進路を求めるようになりました。その結果、現在でも植木業を含めて農業就労者の高齢化・農業離れは加速しており、休耕地・耕作放棄地も増えています。地元の農業力の脆弱化は加速していると言っても過言ではありません。

4.現状、取り組んでいる打ち手
このような流れの中で、私自身は地場産業を継承する打ち手として、就労機会を増やそうとする前向きな障がい者の方々に植木産業に参画頂く可能性が充分にあることを、地元の植木事業者と障がい者支援団体とも議論を重ねました。
具体的な着手としては、2017年からは、私の事業所に障がい者支援施設の利用者さんに来て頂き、植木生産の最も基本的なプロセスになる、「挿し木」に取り組んで頂きました。一方、施設から移動が難しい事業所の方々には、挿し木の資材を私がデリバリーし、支援事業所内での挿し木作業をしていただき、育苗管理もして頂ています。
「挿し木」は、一見、単調な作業で、今日的な生産性を追求するビジネス社会の流れには逆らうように見えます。しかし、障がい者の方々のマイペースで仕事を丁寧にするという個性を活かせる仕事でもあります。
実際に作業をしている方からも「挿し木を通じて植木業に関われることは嬉しい」「穂木や土に触ることは楽しい」と前向きな感想を多く頂いています。

5.今後の課題
この活動で成長したドウダンツツジ苗は、2021年には10.5㎝ポットに移植し、現在、1,200ポットを育苗中です。路地への植え替えをしないことで、成長には時間がかかっていおり、本来の地元での植木の生産プロセスとは異なりますが、障がい者の方々も仕事に参画しやすいように、トライアルでこの方法を用いています。
この方法で、しっかりと根付でき、出荷まですることができれば、地場産業の新たな担い手として、障がい者の方々も担い手としてのポジションを築いていける可能性を拡大できると考えています。

■協力を頂いている障がい者支援団体
公益社団法人 やどかりの里/やどかり情報館
社会福祉法人 ななくさ 大谷事業所
一般社団法人 とまりぎ/ふくふく 東町事業所